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yuccalina

Author:yuccalina
自閉症の息子(14才)と、エンジニアの夫との3人暮らしのアラフィー主婦です。45才でヨガ指導者スクールを卒業し、現在地元で極々細やかな教室を開催。

一方、トランシルヴァニア(カロタセグ地方)の伝統刺繍、イーラーショシュのステッチを用いた雑貨『Yuccalina Erdő=ユッカリーナ・エルドゥ』の制作も行っています。

ミンネ・ギャラリーにて作品展示中。

ブログでは主にハンドメイド、ガーデニングに加え、10代から親しんできたロック音楽に、映画、本等について綴っています。

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ユッカリーナのヨガ的雑記帳


2015/09/30 08:55 yuccalina

『それでも夜は明ける』のその後は闇の中

結局、9月はアフリカ系アメリカ人を描く映画を3本見てしまいました。『キャデラック・レコード』『大統領の執事の涙』に続き、最後に紹介するのがアカデミー賞3部門(作品、助演女優、脚色)を受賞した『それでも夜は明ける』です。こちらは、ブログ仲間のバニーマンさんが取り上げたの読んでから、ずっと気になっていた作品でした。

それでも夜は明ける(2013)~『バニーマン日記』より



1853年に出版された『Twelve Years a Slave (12年間奴隷として)』と言う、自由黒人ソロモン・ノーサップの奴隷体験記を元にした歴史ドラマなのですが、先ずは歴史的背景を簡単に整理したいと思います。

ヨーロッパ各国で奴隷貿易及び奴隷制が廃止され始めたのが19世紀の前半(イギリスが最初で1807年)。アメリカが南北戦争の末に全土での奴隷制廃止になったのが1865年ですから、ちょうどその間の出来事なんですね。アメリカでも北部の州では奴隷解放が既に進んでいて、主人公ソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)はニューヨークで生まれた時から奴隷ではなく、ヴァイオリニストとなり、順風満帆な生活をしていた。ところがある日、興行師を語る2人組から「サーカスでの良い仕事がある」と唆され、拉致されて、南部の奴隷商人に売られてしまう。で、その後に出会う様々なタイプの白人達が

フォード(ベネディクト・カンバーバッチ): ノーサップを最初に買い取る。温厚な聖職者で、ノーサップの能力を評価し味方してくれていたが、お金を借りていたエップスにノーサップを売ってしまう。

エップス(マイケル・ファスベンダー): 残酷な農園主。気分が悪いと奴隷を平気で鞭打ちしたり、お気に入りの女性パッツィー(ルピタ・ニョンゴ)への執着も異常で、情緒不安定な男。

ディビッツ(ポール・ダノ): フォード農園の監督官。上に媚びへつらい下には威張り散らす狭量で陰湿な性格。仕事も出来て頭の良いノーサップを虐める。

アームスバイ(ギャレット・ディラハント): ある農園の監督官から、酒が原因で奴隷に身を落とし、エップス農園へやってきた白人男性。

バス(ブラット・ピット): カナダ人の大工。奴隷制に疑問を持っている。

でして、やはりムカつくのがエップスとディビッツの悪行。しかし、気分次第で奴隷をムチ打ったかとおもえば、屋敷にあげて踊れと命令したり、天候被害も奴隷達のせいだと八つ当たりしたり、やることがムチャクチャなエップスは、明らかに頭がおかしい。人格的に破綻した異常者にしか見えないです。むしろディビッツの方が人間のイヤラシサが出ていて、ゾーッとするものがありました。白人である自分が奴隷のノーサップより劣ってるなんて絶対に許せん!という嫉妬から、ノーサップに色々と意地悪するんですね。多分、自分が白人の中では下の身分であることへの劣等感が強いのでしょう。

そして一見良い人なのがフォードとアームスバイですが、フォードはノーサップを気遣うものの、あくまでも主人と奴隷の関係は崩しません。まだ奴隷制への疑問にも目覚めていない状態。それは、単なる無知なのか、はたまたハンナ・アーレントが語っていた「全体主義における思考停止による陳腐な悪」なのか。

一方のアームスバイは「昔は農園で雇われ監督官をしていたが、黒人奴隷をムチ打つのが辛くて、酒浸りになって破産した」とノーサップに告白。黒人奴隷への同情心を自ら意識していました。それを聞いたノーサップは、”北部の友人に助けを求める手紙”を託そうとしますが、アームスバイはエップスにばらしてしまいました。まあ、辛いと酒に逃げる弱い性格だったのでしょうから、さもありなんなんですが、私はここで勝手に想像してしまいましたよ。

手紙のことばらした罪悪感で、また酒をあおってんじゃね?って。

実を言うと、私はアームスバイが登場した時に、サム・フィリップスを思い出したんです。勿論奴隷制が廃止された後の話ですが、フィリップスは小作人の子供として、黒人達と一緒に綿花畑で働いていて、そこで聴いた黒人の歌に感動し、後に黒人音楽に携わるようになりました。アームスバイは保身の為に裏切ったチンケな白人でしかなかったかもしれませんが、黒人と同じ立場で一緒に働いていた白人の中から、後に価値観を共有する人々が現れたのかもしれない、とふと思った訳です。

そして、最後は一番美味しい役だったブラピのバスですが、北部からやってきた人間で、明らかに考え方が違っています。奴隷制への疑問をハッキリと口に出して言いました。そしてノーサップの手紙を出して、救出の手助けをします。意識が高く、賢くて勇気もあった。こういうタイプは沢山は出てこない、やはりスペシャルな役をブラピは頂いた訳ですな。

さて、ノーサップは12年の後、無事にニューヨークへ帰還し、本も書いた訳ですが、彼を誘拐した2人組と奴隷商人を提訴したものの、当時は裁判における黒人差別があったため、どちらも罪には問えず終わったそうです。そして、彼はいつどこで亡くなったのかも不明であり、一部では再び拉致されて、どこかに売られてしまったのでは?とも言われているとか。しかし、本を出した時すでに40代半ばの筈ですから、年齢的に奴隷はなかったのでは?と思います。むしろ、裁判を起こしたり、本を出したことで、白人から恨みを買い、抹殺されてしまった可能性が高い気がします。

と言った、ノーサップのその後のモヤモヤ感がそのまま残るエンディングとなりましたが、このように、「北部の自由黒人を誘拐して南部に売る」パターンは、多かったのかもしれませんね。先に奴隷貿易が禁止になって、外から連れてこれなくなったから、不正に国内供給しようとした奴等がいたってことでしょうから。勿論エップスもディビッツもムカつきましたが、誘拐犯と奴隷商人が処罰されなかったのが、私は一番頭にきたんです。だからこその、このスッキリしない感じ。

ってなままで終わるのも何ですので、最後に少し音楽のお話を。綿花畑や林などで働きながら歌うワークソングや、黒人の仲間を弔う歌などが出てきました。



後に民俗音楽研究家のジョン・A・ローマックス(1867~1948)と息子のアラン・ローマックス(1915~2002)が全米の民俗音楽をフィールドレコーディングし始めたのが1933年で、それ以前の音源は残っていないのですが、日々の生活の中で伝わったであろうこれらの音楽は、きっと素晴らしいものだったのでしょう。残念ながら農園での録音は見つからなかったのですが、こちらは最初期に録音された囚人たちのワークソングです。



先述のサム・フィリップス以前に、ジョン・ローマックスは9歳の時、親の農園で働いていた黒人少年ナット・ブライスと友達になり、彼から歌を教えてもらったとか。その後ナットは21歳で農園を出て行ったのですが、「殺害された」との噂を耳にしたジョンは、ナットを探して南部を旅したそうです。そう、その体験が後の仕事と深く関わっているのは間違いありません。音楽が人種の壁を超える重要な役割を果たしたのは、ソロモン・ノーサップの時代からもう少し後のことになりますが、R&Bやソウルの種は既に蒔かれていたのかもしれない、そう思ってモヤモヤした気持ちを収めるしかないのかもしれませんね。


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タグ: R&B ソウル

テーマ:ヒューマン・人間ドラマ - ジャンル:映画

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こんばんは。
当ブログを紹介して頂きありがとうございます。

いつもながら歴史的背景からの細かい解説、大変参考になります。

自分のブログも改めて読み直し思ったのは、この映画に出てくるブラピとアームスバイ以外の白人は、奴隷に対して何の意識も持っていなかったんだな~ということです。
フォードにしても、奴隷がいるということは、それがまったく常態だったということですよね。
無知というより、「ハンナ・アーレントが語っていた「全体主義における思考停止による陳腐な悪」」だと思います。

今作のラストは、事実ゆえにすっきりしない終わり方で、それゆえに残酷ですね。
バニーマンさんへ

> 当ブログを紹介して頂きありがとうございます。
いえいえ、こちらこそ、興味深い映画を知るキッカケをありがとうございます。

> いつもながら歴史的背景からの細かい解説、大変参考になります。
>
> 自分のブログも改めて読み直し思ったのは、この映画に出てくるブラピとアームスバイ以外の白人は、奴隷に対して何の意識も持っていなかったんだな~ということです。
> フォードにしても、奴隷がいるということは、それがまったく常態だったということですよね。
> 無知というより、「ハンナ・アーレントが語っていた「全体主義における思考停止による陳腐な悪」」だと思います。

南北戦争以前に奴隷から解放されていた人々がいたことは、これまで知らなかったので、歴史を少し調べてみたんです。北と南では人々を取り巻く環境も意識も、かなり違っていたのでしょうね。

> 今作のラストは、事実ゆえにすっきりしない終わり方で、それゆえに残酷ですね。
やはり歴史ドラマなので仕方ないですね。しかし、カタルシスは無くても、学ぶべきことは多いと思いました。
こんにちは。
はじめまして・・・実は先日こっそりお邪魔してました。
ゆっかりーなさんも、きてくださったのですね。

映画とは無関係なコメントでゴメンナサイネ。
しばらく映画もみてないので・・・
何度か映画に行ったのですが、頭痛はするわ、肩は凝るわ
目は痛いわ・・・で、それっきりです。

トモローくん、とってもいいお顔されてますね。
suuuさんへ

初めまして。コメントありがとうございます

> 映画とは無関係なコメントでゴメンナサイネ。
> しばらく映画もみてないので・・・
> 何度か映画に行ったのですが、頭痛はするわ、肩は凝るわ
> 目は痛いわ・・・で、それっきりです。
いえいえ、全然オッケーですよ。
suuuさんは色々と手作りされてるんですね。
私はアレコレと注意力が散漫な為、もの作りもとても時間がかかります。フリマとか一度は体験してみたいですが、沢山作れないので難しそうです。

> トモローくん、とってもいいお顔されてますね。
ありがとうございます。


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☆それでも夜は明ける(2013)  12 YEARS A SLAVE 上映時間 : 134分 製作国 : アメリカ 映倫 : PG12 監督:スティーヴ・マックィーン 製作:ブラッド・ピット デデ・ガードナー ジェレミー・クライナー ビル・ポーラッド スティーヴ・マックィーン アーノン・ミルチャン アンソニー・カタガス 脚本:ジョン...
  • posted by バニーマン日記
  • 2015/09/30 20:00
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