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yuccalina

Author:yuccalina
自閉症の息子(14才)と、エンジニアの夫との3人暮らしのアラフィー主婦です。45才でヨガ指導者スクールを卒業し、現在地元で極々細やかな教室を開催。

一方、トランシルヴァニア(カロタセグ地方)の伝統刺繍、イーラーショシュのステッチを用いた雑貨『Yuccalina Erdő=ユッカリーナ・エルドゥ』の制作も行っています。

ミンネ・ギャラリーにて作品展示中。

ブログでは主にハンドメイド、ガーデニングに加え、10代から親しんできたロック音楽に、映画、本等について綴っています。

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ユッカリーナのヨガ的雑記帳


2014/12/10 13:03 yuccalina

『カルパチアのミューズたち』その(4)~クレズマーを巡るマラムレシュのユダヤ人とロマ

その著書でルーマニア文化を広く日本に紹介している写真家でエッセイスト、みやこうせいさんのCDブック『カルパチアのミューズたち~ルーマニア音楽誌』から、気になる音楽やダンスを紹介している第4回です。前回「次回は叫び歌のストリガトゥーラについて書くつもり」としてましたが、予定を変更しクレズマーにします。後で書きますが、クレズマーとユダヤ人について、ちょっと思う所がありましてね。本書からの引用文はすべて赤字で表記します(下線はブログ主による)。

カルパチアのミューズたち―ルーマニア音楽誌 CDブックカルパチアのミューズたち―ルーマニア音楽誌 CDブック
(2011/04)
みや こうせい

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クレズマーと言う東欧のユダヤ人音楽ついては、これまで音楽の話で度々書いてきたのですが、実はこの本を読むまでは、ルーマニアのクレズマーについて良く知らなかったんです。しかも、実は知らない内に聴いていた曲が結構沢山あったことも気が付きました。

それは、ハンガリーのムズィカーシュ(The Muzsikas)というバンドでして、私は何枚かCDも持っていたからなんです。彼等が(ここではマラムレシュを含む広義の)トランシルヴァニアの音楽をやってるとは理解していたものの、それがクレズマーだったとは露知らずでした。まあ、歌がハンガリー語で歌われてたこともあり、全く考えが及ばなかったのですが、ムズィカーシュのアルバムにはタイトルに「Jewish」とつくものもあったようですね。

Maramaros-Lost Jewish Music of TransylvaniaMaramaros-Lost Jewish Music of Transylvania
(1993/05/04)
Muzsikas

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私はかつて、みや氏の『ルーマニアの小さな村から』で、マラムレシュのユダヤ人について読んだことがあるのですが、クレズマーについてはこの本が初めてでした。

・・・・・ユダヤ人はルーマニアに、主に19世紀の半ば頃、ポーランドのガリシア地方からポグロムを逃れて大量に入ってきた。・・・・・クレズマーとはイディッシュ語で「音楽の入れ物」、あるいは「音楽の船」(このほうがふさわしい)との意味。クレズマー楽団はツィンバロン、コントラバス、フルート、クラリネット、ヴァイオリンと言った編成で、村や町などを巡回して、祭り、パーティー、結婚式、市の日に演奏した。楽団で重要な役割をはたすのはヴァイオリンで、楽師達はまことに闊達、即興の才に富んでいた。しかし、クレズマー音楽はロムの楽師によってもよく演奏され、互いに触発し合い現在に至ったことは銘記されてもよい。・・・・・北トランシルヴァニア、マラムレシュのクレズマー音楽は、ハンガリーのチャルダッシュの調子、ルーマニア農民の民謡の気配が濃厚に感じられて、興味深い。マラムレシュのクレズマー音楽は、近年プダペストのフォークアンサンブル「ムジィカーシュ」よって演奏され、アメリカでCDとなった。

1944年マラムレシュの町シゲットには1万人以上のユダヤ人が住んでいたが、戦後、強制収容所から戻ってこれたのは、数百人だったそうです。

マラムレシュのどんな僻村にも、ユダヤ人墓地がある。今は村の人が干し草と引き換えに墓地を管理している。時に忘れた頃、生き残りのユダヤ人が世界各地から来る。

さて、本書の付属CDに収められたクレズマーは「クルンプリKrumpli」という歌で、ハンガリー語でじゃがいもの意味です。残念ながらYouTubeで動画を見つけられませんでしたが、歌詞はこうです。

月曜じゃがいも、
火曜水曜じゃがいも、
木曜金曜じゃがいも、
土曜日曜じゃがいも
また、じゃがいも、
またまた、じゃがいも、
次の日曜もじゃがいも


貧乏で毎日じゃがいもばかり食べてる、もうウンザリじゃーー!という歌でしょうか。私は学校で習った「一週間」という歌を思い出しましたが、あれもクレズマーかしら?曲はちょっとコミカルで、クレズマー特有の憂いを帯びたメロディって感じじゃないんですけど。ともかくも、飢えはクレズマーの大きなテーマの一つだったのです。

パンや肉、魚、お菓子について短い歌をさあ、うたおう。
先生(ラビ)、どうしてなのか教えてください、
お金持ちのパンはふわふわしていて、貧乏人のは真っ黒でぱさぱさ。
先生、どうしてですか、
お金持ちに肉は七面鳥で、貧乏人にはひからびた肺です。
(中略)
先生、どうしてですか、
お金持ちには甘い果汁で、貧乏人には甘いことばだけ。


現在ではユダヤ人って、様々な分野で成功を収めてたり、商売上手な実業家のイメージが強いかもしれませんが、こうした歌を残したマレムレシュのユダヤ人には、農民も多く、靴屋とか洋服屋とか、あらゆる階級がいて、皆倹しい生活をしていたそうです。こんな歌詞もありました。

窓から吹きこんでくる雨はおれ達の涙、長靴は水もりしていて、冬が来る。あたたかい部屋はない。
何を話そうか、ろうそくも残り少ない、最後のろうそくがとけてしまう、何を話そう。
おれの時計の文字盤は黄色、音は息もたえだえ、いつも時間は遅れ、約束の場所に早くつく(時計があてにならなく、遅れてはならじと)。
だから、おれは早く年をとる。青春は飛び去り、別の世がやってくる・・・・・


ユダヤ人達は厳しい現実と向き合うべく、淡々と歌詞を綴っているようで、私はそこでふと思ったのです。

これって、まるでブルーズっぽくないですか?

これが冒頭で書いた、思うところなんです。そう言えば、ムジィカーシュに「ブルース・フォー・トランシルヴァニア」というアルバムもあったし、故・篠田正己さんもカバーしていた曲「イディッシュ・ブルース」ってのもあったっけ?

Blues for TransylvaniaBlues for Transylvania
(1991/06/03)
Muzsikas & Marta Sebestyen

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ここから私は俄かに、ユダヤ人とブルーズの関わりに興味が沸いてきたのです。その辺りは別途、現在視聴中のDVD BOX「The Blues Movie Project」の話で詳しくしようかと思っているのですが、このような歌を歌うユダヤ人にとって、アメリカ黒人のブルーズは、きっと琴線に触れるものだったのではないかと。

みや氏はクレズマーについてこうも書いています。

貧しい、その日ぐらしのユダヤ人にとって切実なのは、実に食事なのである。金持ちでも何でもなく、将来も決して裕福になる保証のないユダヤ人の真摯な心情。しかもみずからの置かれた現状を見すえて戯画化する、あきらめの中にふときざす心のゆとり、ユーモアである

確か『ピアノ・ブルース』の中で、マディ・ウォーターズが「俺をブルーにさせるのは空腹と女」と言ってたのですが、歌の原動力とその姿勢において、クレズマーとブルーズは通じるものがあるんじゃないか、と思ったのです。

と、ここで話を戻しますが、先にも記した通り、マラムレシュのクレズマー音楽にはロマの楽師が関わっている、というのも興味深いところ。こちらに関しては、ムズィカーシュがロマのヴァイオリン奏者ゲオルゲ・コヴァチ(Gheorghe Covaci)と共演している動画がありました。



この動画は元々ハンガリーのテレビで放送された番組の一部のようでして、その全編らしきものもありました。



ゲオルゲおじいさんはルーマニア語しか話さないらしく、通訳が入ってますね。ムズィカーシュのメンバー達と楽しそうに演奏する姿が印象的。現在のルーマニアでかつてユダヤ人がハンガリー語で歌っていた音楽を、ハンガリー姓のロマのおじいさんが、ルーマニア語でハンガリーから来たミュージシャンに教えている、という構図が面白いなあと。

実を言うと、私はこれまでロマの苗字に関して疑問を持っていたのですが、本書でその謎が解けたんです。私はロマの苗字はその土地のマジョリティーに合わせて付けてると、勝手に思ってたのですが、実際は「ロマはハンガリー貴族の奴隷だった為、ご主人様の性を名乗ってた」のが受け継がれてるんだそうです。ですから、現在大多数がルーマニア人のマラムレシュにおいても、ロマは皆ハンガリー姓なんですね。但し綴りはKovacsiからCovaciとルーマニア風に変わっています。ゲオルゲというルーマニア人のファーストネーム(ハンガリー語だとジョルジ)に、ハンガリー姓のコヴァチが繋がるのは、マラムレシュがかつてオーストリア・ハンガリー帝国の一部だった象徴でもあるのです。

そして、ロマがユダヤ人の音楽クレズマーを継承していた、というのが、私にとって一番印象深いところ。同じように迫害されていた民族として共感するところがあったのか、それとも楽師としてシンプルに、素晴らしい音楽だと思ったから演奏し続けたのか、どちらにしても、良いものは伝わって行くものなんだなあ、と思ったのでありました。

マラムレシュのクレズマーを検索していたら、ニコラエ・コヴァチ(Nicholae Covaci)と言う楽師の動画も出てきました。コヴァチ姓のロマはとても多いそうですが、ゲオルゲおじいさんと親戚でしょうかね。



こちらはニューヨークからやってきたヴァイオリニスト、ジェイク・シュルマン・メントとの共演とクレジットがあります。

ところで、ムズィカーシュについては、今回色々調べていて、ジブリの「おもいでぽろぽろ」でカロタセグ地方の曲が使われていたとか、実は今年の5月に来日してたとか、情報が次々と出てきて、書きたいことはまだまだあるのですが、取りあえず、クレズマーのアルバム「The Rooster Is Crowing」が丸々YouTube聴ける動画がありました。直に貼付け不可になってましたので、リンクだけ貼っておきますね。

The Rooster Is Crowing - Hungarian Jewish Folk Music (Muzsikás)

中にはロシア民謡の「カチューシャ」を思わせるメロディがあったりて興味深いです。ユダヤ人の移動と共に、音楽も伝わってるんだろうなあ。

と言ったところで、次回こそ、ストリガトゥーラ(叫び歌)のお話をしようと思います。


お読み頂きありがとうございました。
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タグ: クレズマー トランシルヴァニア 東欧 ロマ R&B

テーマ:ワールドミュージック - ジャンル:音楽

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Comment
ユダヤ、ロマ、アフリカ系黒人
なるほど!ですね。

上記の音楽を聴いてみたところ、大道芸が思い浮かびました。

それとニューオーリンズ。
シカゴやニューヨークに行く前の音楽ですね。

ヨーロッパの人々の主食ってジャガイモなんですよね?

ジャガイモ“しか”食べられないと
ジャガイモ“が”食べられるの違いは大きいとは思いますが、
日本人が白米を食べる(食べることが出来る)というのとは
ちょっと感覚が違うのかな。
ブルースとユダヤ人ですか~?
まったく思いも寄らなかったことで面白いです^^
確かに「イディッシュ・ブルース」、YouTubeの演奏はニューオーリンズ匂いがしますね。
バニーマンさんへ

> ユダヤ、ロマ、アフリカ系黒人
> なるほど!ですね。
>
> 上記の音楽を聴いてみたところ、大道芸が思い浮かびました。
>
> それとニューオーリンズ。
> シカゴやニューヨークに行く前の音楽ですね。


私はジャズはよく知らないのですが、「元々は黒人の音楽というよりはユダヤ人の音楽ではないか」という認識もあるらしく、ここでも黒人音楽との繋がりを感じます。

> ヨーロッパの人々の主食ってジャガイモなんですよね?
>
> ジャガイモ“しか”食べられないと
> ジャガイモ“が”食べられるの違いは大きいとは思いますが、
> 日本人が白米を食べる(食べることが出来る)というのとは
> ちょっと感覚が違うのかな。


私も正確なところは分かりませんが、ヨーロッパの主食というと小麦の方が多いんじゃないでしょうか?本書には

「じゃがいもは救荒食品で、まずしさの象徴、代名詞、
品種改良されず、調味料が乏しい時代のイモのまずさはたとえようもない。
にてもやいてもまずさはちっともかわらない」

とありました。現在のジャガイモのイメージでは到底理解出来ないかと思います。「ジャガイモしか食べられない」と言うのは、一番安い食べ物しか買えない、そういう意味なんですね。
ジオヤーさんへ

> ブルースとユダヤ人ですか~?
> まったく思いも寄らなかったことで面白いです^^
> 確かに「イディッシュ・ブルース」、YouTubeの演奏はニューオーリンズ匂いがしますね。


篠田正己さんは一応ジャズサックス奏者で括られていましたので、ニューオーリンズジャズの香りはあるかもしれませんね。元々ジャズの世界にもユダヤ人は多いですが、アメリカの音楽・芸能関係はユダヤ人が作ったと言っても過言ではない筈。当然ブルーズへの影響も強かったのではないかと思うんです。


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